メンデルスゾーン:序曲『フィンガルの洞窟』 作品26《一流の風景描写》

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 今回紹介する作品はフェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809〜1847)の序曲「フィンガルの洞窟」です。その情景描写の素晴らしさにR・ワーグナーも称賛したとされる彼の代表作の一つ。いったいどのような魅力があるのでしょうか。

スコットランドへの旅

 まず、この作品は序曲と題されてはいますが、後に何かが続く訳ではありません。言ってみれば「演奏会用序曲」で、これ一曲で完結された作品です。(形式も導入部を持たないソナタ形式でできています。)その完結された10分にも満たない一曲の中にメンデルスゾーンは目で見て肌で感じたものを凝縮したのです。 

 1829年、メンデルスゾーンは清遊も兼ねてスコットランドのヘブリディーズ諸島に旅をしました。その途中スタファ島を訪れた彼はタイトルでもあるフィンガルの洞窟の絶景に心打たれ大きな感銘を受けました。その体験に着想を得て作曲されたのがこの序曲でした。すぐに冒頭のメロディーを書きとめ、その旋律と共に受けた感動を姉に手紙で送っています。(完成は1830年12月16日にイタリア滞在中)完成後も何度か改訂を行いましたが、この冒頭のメロディーだけは変えなかったそうです。

絵画を観ているような魅力

 曲はいきなりその第1主題から始まりますが、それがなんとも神秘的。下降する音符は特徴的なリズムに揺れながら海の静かなうねりを表現します。それを演奏する楽器がヴィオラ、チェロ、ファゴットといった中低音楽器というところも魅力的です。(メンデルスゾーンが訪れた時はあまり天気が良くなかったという話もあります)この主題がモチーフとして全曲を通し重要な役割を果たします。続く第2主題はチェロとファゴットにより演奏されますが、長調で演奏されるこのメロディーがまた憧れに満ちていてとても美しいのです。

 そして、これらの素材を駆使しながらメンデルスゾーンは海の様々な姿を描写していきます。鷗の鳴き声や波のしぶき、風の唸りが点綴され、彼がそこで感じたもの、空気感までもが200年近く経った今でも伝わってくるような気がします。R.ワーグナーがこの作品を聴いてメンデルスゾーンの事を「一流の風景描写家」と評したことも納得できます。まさに絵画を鑑賞しているような作品です。

 また、この旅行の時にメンデルスゾーンはまだ20歳であったという事実も驚きです。もっと若い時に『弦楽八重奏曲』op20や『真夏の夜の夢序曲』op21を作曲している事は、彼の早熟ぶりを表す事実として有名ですが、この「フィンガルの洞窟」を着想した感性もまた、彼の天才ぶりを伺い知る事実なのかなと思います。

 そんな傑作『フィンガルの洞窟』。皆さんもメンデルスゾーンが感銘を受けたその情景を思い浮かべながら、是非聴いてみて欲しいです。

※ちょこっとメモ

小学生の頃、ラジオから流れてきたとあるピアノ曲を聴いた時に、『フィンガルの洞窟』の第1主題に似ているなと思った曲があります。調性も拍子も曲の雰囲気も全然違う曲なのですが、そのピアノ曲の伴奏を聴いた時に「これって海のテーマなのかな?」と。

 それがF・ショパンの『舟歌』op60です。こちらはヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来するといわれていますが、同じ「波」を想起させるこの音型。時代的には舟歌の方が後ですが、波を音楽で表そうとすると、こんなリズムが思いつくのかなと、無知ながら考えていました。

【フィンガルの洞窟】

【舟歌(12/8拍子)】

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